偽りの婚約者に溺愛されています
「さて。挨拶はこれくらいにして。本題に入ろうかな。君がここまで来たのは、おそらくうちの息子たちのことだと思うが」
にこやかなままの顔で優しく言われるが、私の胸はバクバクと早鐘を打っている。
「私は……今日は、自分の気持ちにけじめをつけに来たんです。修吾さんとお見合いをして、お付き合いをすると決めたんですが……。でも」
「でも?……なにか修吾に問題でも?」
正直に話したら反対するだろうか。
いい加減な考えの人間だと思われるだろうか。
黙って私の返事を待つ松雪社長は、じっと私の顔を凝視している。まるで私の考えていることを、読み取ろうとしているかのようだ。
「修吾さんに問題なんてありません。問題があるのは私のほうです。修吾さんは素敵な人です。私みたいな、女性らしさに欠けた女に、興味深いと言ってくれました。だけど、私には……どうしても忘れられない人がいます」
一気に告げた。
表面には出さないように努めているが、本当は緊張で目眩がしそうだ。
しばらくふたりでお互いの目を見る。
松雪社長の言葉を待つこの時間が、とても長く感じる。早くなにか言ってほしいと願う。