偽りの婚約者に溺愛されています

「ぶっ……。ふふっ」

突然、松雪社長が吹き出した。
私は驚いて彼を凝視する。

「ははっ。にらめっこは俺の負けだな。いいんだよ、夢子さん。君の気持ちは分かってた。ここに来た意味もね。実はね、最近の君たちの動きを実況中継してくれる、強烈な電波があってね」

「はい?」

笑いを堪えた表情での彼の話は続く。

「さっき話したよね。俺には昔からの友人がいると。彼がね、今になって逐一、熱心に報告してくるんだよ。もうさー、面倒くさいんだよね。一日に何度もさ。俺だって、鬼じゃないんだから、頭ごなしに引き離したりはしないよ。そう思われてないなら失礼だよな。君からも言ってくれない?あ、ちなみに失礼な電波役の彼は、君の父上だがね」

私は開いた口に手を添える。

「智也にもらったのかい?綺麗な指輪だね。わが息子ながら、なかなかセンスがいい。欲を言えば、もっと目立つデザインのほうが君に似合うかな。俺から見ると君には少々地味な気がする」

「えっ。あっ……」

慌てて手を下ろした私を見て、松雪社長はクスクスと笑う。

「まあ、このまま待って。もうそろそろかな。一応親子だからね。彼の行動が不思議なほどに読めるんだ。あいつは特に、修吾よりも分かりやすいからね」

松雪社長が言っていることの意味が分からず、私は首をかしげた。

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