偽りの婚約者に溺愛されています
「泣きやむまで君は、しばらくここでこうしていなさい」
なっ……!なー!!なにが起こったの!?
私の身体がピキーンと硬直する。
「まつゆ……。あの……」
モゴモゴと話す私に彼は言う。
「離してほしい?もう泣かない?」
私は必死で何度か頷いた。
突然こんなことをされたので、腰が抜けそう。
足がぐにゃっと揺れる。
「よし。少し残念だが離してやろう」
ぱっと松雪さんの身体が離れ、私の身体は解放された。
「おっと。危ない」
その直後によろめいた私を、彼が再び抱きとめ、ふたりは元の体勢に戻った。
「コーヒーなんて買うんじゃなかった。手が使えないから、身体に触れないじゃないか。もっと楽しみたいのに残念だ。女の子を慰めるのは、なによりも得意なのに」
彼の両手に握られた缶コーヒーが、私の貞操を守っているらしい。
……というか。
私は、自分の置かれている状況を再び認識した。
急激に、いても立ってもいられなくなる。
「きゃー!」