偽りの婚約者に溺愛されています

「だけど、恋愛だけは別だった。俺のほうが、女の扱いがうまい」

「なんの話だ」

眉をひそめて彼を睨む。

「純情な桃華なんて、俺にかかれば一瞬で落とせるはずだったのに。だけど父さんは、俺じゃなく兄さんとあいつを結婚させようとしたんだ」

「お前……やっぱり」

今度こそ間違いないと思えた。
修吾は桃華が好きなんだ。

「どうして自分の気持ちを言わなかったんだ。俺は初めから、桃華と結婚する気なんてなかった。婚約も了承していない。素直になれば、お前に＿＿」

「すでに兄さんの婚約者だったからだよ。横からコソコソと気持ちを告げて、奪うなんて卑怯な真似はできない。俺だって、それがダメなことくらいは分かってる。だから逆にあいつが自然と俺を好きになって、兄さんに別れを告げればいいんだと思った」

しばらく前まで、絶えず女性の陰をちらつかせていた修吾を心配した父が、皮肉なことに俺が気になっていた夢子との見合いを持ちかけた。
修吾がそれを受けたのは俺の予想通り、桃華の気を引くためだったようだ。

「桃華だってお前が好きだよ。やけになって、俺と結婚しようと思うほどにな。あいつだって必死だったんだ」

「桃華の気持ちは分からない。本人から言われたこともないし、残念ながら、会えばいつもケンカになる」

「それはお前の行動が許せないからだよ」

ため息まじりに言う修吾を見て、夢子を本気で好きなわけではないと分かり安堵する。

「だけど、夢子さんと兄さんが惹かれあっていることは分かる。もどかしくて、思わず笹岡社長と父さんに協力したほどた。兄さんが悩むのが楽しかったのに、本当に俺って損だよな」