偽りの婚約者に溺愛されています
言い合う親子を見ながら呆然とする。
だがいつしか、私の目線は彼を捕らえ、動けなくなってしまった。
「桃華は修吾が好きなんだ。夢子と修吾は結婚なんてできない」
「だからそれは、俺も分かってるんだよ。今さらお前に言われなくても。笹岡といい、お前といい、いったい俺をどんな人間だと__」
「なにを分かってるんだ。ずっと聞けずにいたけど、どうして俺をここに呼び戻した?修吾を今度はササ印に行かせるつもりなのか?そんな都合のいい話があるかよ」
私が見つめていることに気付かずに、彼は抗議を続ける。
「企画を途中で投げ出すことが、どれだけ無責任なことか父さんは分かってない。笹岡社長に戻れと言われたら、それが嫌だとは言えないじゃないか。やり方がずるいんだよ」
智也さんだ。
離れていたのはわずかな期間だったけど、胸が張り裂けそうなほどに苦しくて恋しかった。気を抜くと震えてしまいそうなほどに、会いたかった。
その彼が今、私の目の前にいる。
「……智也。待て」
松雪社長が私を見ながら、彼の話を止める。
それにつられて彼も私を見た。
ようやく彼と目が合ったとき、私はすでに涙を堪えきれずに泣いてしまっていた。そんな私に、松雪社長は気づいたのだ。
「夢子」
彼が私に近づいてくる。
グローバルスノーに戻ると言われてから、口を聞いてもいなかった。
名前を呼ばれるのはずいぶんと久しぶりだ。