偽りの婚約者に溺愛されています
彼が私の座るソファの真横に立つ。
そんな彼を見上げて、私は恍惚としていた。
言いたいことはたくさんあったはずなのに、すべてがどうでもいいような気がしてくる。
こうしてあなたを見つめて、その気配を感じることがようやくできたのだ。

そんな彼が、すっとかがんで私の腕を掴むと、私をそっと立たせた。

ぐっと近くなった彼の瞳の中に、私の姿が映し出されるのが見える。

「元気にしてたか」

「……ふぁい」

涙を堪えながら話すのは、やっぱり苦手だ。
こんな状態で、きちんと気持ちを話せるのかな。

クスッと笑うその顔を、食い入るように見つめた。

「もしも父さんになにか言われたなら、気にしないでほしい。何度も言うが、桃華とはなんでもない。俺の気持ちは変わらないから。やっぱり、夢子じゃないとダメみたいだ。重症だな」

私の左手をそっと持ち上げ、彼の指が指輪をなぞる。

「俺をこんなふうにした責任を取るんだよな?君の答えがここにあると思っていいんだろ?バスケットボールよりも、これがいいと思えてきたか?なんと言っても、これには愛がこもっているからな」

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