偽りの婚約者に溺愛されています
智也さんの背後で、松雪社長がニコニコしながらそっと部屋を出ていくのが見えた。
もう我慢の限界だ。
あなたに触れたい。
「智也さんっ」
「おっと!」
そう思った次の瞬間、彼に飛び付いてその身体にしがみついていた。
咄嗟に私の身体を受け止める、逞しい腕。いくら私が『王子』と呼ばれ、女性に想いを寄せられても、こんなふうにはできない。
やはり私は女で、智也さんのような男性に包まれたなら幸せを感じてしまう。
背の高い彼の首に手を回し、抱きしめなおす。
彼にぶら下がるようになりながら、あの日買ってもらったパンプスで来たらよかった、そしたら背伸びをせずに済んだのに、と考える。
「なんだよ。しばらく会わないうちに、こんなに可愛いことができるようになったのか。誰がこんなことを教えたんだ?」
それには答えず、彼の肩に顔を埋める。
恋の仕方なんて、あなたにしか教わってはいない。
男の人に間違われてばかりいた私を、ここまで変えたのは智也さんだ。
ドラマの中でしか見なかったような行為を、まさか自分がする日が来るなんて、思うはずのない日々だったのだ。
「……覚悟しろよ。俺は、好きな女には、引くくらいに甘いぞ」
その言葉にピクッとなり顔を上げた。
「……引くほどに甘くした方がいたんですね。そんなことを言うなんて、無神経ですよ」