偽りの婚約者に溺愛されています
耳元で優しく囁かれ、腰が抜けそうな感覚になる。

「ごめんなさい。私、自信がなくて。どうしたらいいのか、分からないことばかりだから。……面倒くさいですよね」

気持ちをそのまま伝えると、彼が私の肩を掴み、身体をクルッと彼のほうに向かせた。

「面倒くさいだなんて、思うはずないだろ。俺が悪いんだから。無神経だった」

甘い視線で見つめられ、胸が高鳴る。

「私のこと、嫌いに……なった?」

尋ねると、彼はクスッと笑う。

「ならない。可愛くて……堪らないとは思うが」

そのまま重なる唇が、私を再び幸せな気持ちに変えていく。

柔らかく触れるこの感触を、ずっと忘れることなどできなかった。
啄んでは離れ、また引き寄せられていく。

ここまで来て本当に良かった。

「智也さ……ん、好……き……」

「うん。……知って……る」

キスの合間に交わされた、一番伝えたかったこと。
ようやく言えて、安堵から涙が溢れてくる。


唇を離し、おでこをくっつけて見つめ合う。

「本当に意地っ張りだな。……待たせすぎだ」

自分でもそう思う。おそらく、気持ちなんて初めからだだ漏れだっただろう。

「やっと本当の気持ちを言えました。智也さん。……四百万円で、今度こそあなたからの婚約の依頼を承ります。期間は無期限のみですが、よろしいですか。……途中で返品はできません」





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