偽りの婚約者に溺愛されています
彼をドンッと押しやり飛び出すように彼の胸から離れる。
「うおっ。危ないなぁ」
彼は、よろめきながら私を見た。
「すっすみません!私、こんなふうにされたのは初めてで……!びっくりしてしまって!」
いくらなんでも、私にはハードルが高すぎる。
苦しいほどに鳴り響く胸を、グッと押さえた。
「ふ……っ。ふはっ。あははは」
真っ赤になりながら自分を睨む私を見て、松雪さんは
ゲラゲラと楽しそうに笑いだした。
「本当に面白いな。男の胸に抱かれるのは初めて?それが本当ならば嬉しいな。俺は君に触れた、唯一の男ってわけだ」
「ば……バカにしないでください。松雪さんにとってはなんでもないことでも、私には……」
再び泣きたくなるのを、ぐっと堪えた。
今まで、誰からも相手にされてこなかったと言っているようなものだ。
松雪さんもからかっているだけで、私を好きなわけではない。
「バカになんてするはずないだろ。そんなのは、好きな人が現れてからでいいんだ。笹岡らしくて、俺は好きだけど」