偽りの婚約者に溺愛されています
彼は私の髪に指を入れて、そっと私の頭を掴んだ。押さえ込まれ、さらに彼の顔がぐっと近くなる。

「ああ。望むところだ。返品なんてするもんか。……確認のために契約印を押してもいいか?」

思わず笑ってしまう。

「またですか?」

「きりがないんだ。ずっとこうしたかったから。君が足りない」

再び触れた唇は、優しく私の唇を包んでいく。
舌をそっと絡め合い、目を閉じてあなたを感じる。

ずっと憧れていただけの遠い存在だった彼は、頑なに自分を否定してきた私の心を溶かし、こんなにそばまで来てくれた。
これ以上、望むものなんてない。

「夢子を……俺のものにしたい。君の全部を……俺にくれないか。大切にするから」

彼の申し出に、そっと頷く。

きっとあなたなら、またさらに素晴らしい夢を見せてくれるのだろう。そう信じている。


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