偽りの婚約者に溺愛されています
常に女性と噂になる松雪さんの意外な返事に驚いた。
絶対にまた、からかわれると思ったのに。
「そのまま自分を大事にしろよ。安売りしたら君の価値が下がる」
そう言いながら、私に缶コーヒーを手渡す。
「このまま戻るのはもったいないな。もう少し君と話していたい。少し座るか」
そばにあったベンチにドサッと座ると、彼はコーヒーをぐっと飲んだ。
「ちょっとは元気になったか?君は真面目だから、なにごとも思いつめる傾向がある。もっと自分に自信を持てよ」
私は彼の横にストンと座ると、彼のほうを向いた。
「自信なんてありません。正直に言うと、今の自分に満足なんてしていないんです。私は……男みたいだって、小さな頃から言われてきて、その通り女性にしか興味を持たれない。わかってはいるんですけど」
不思議なほどにすらすらと、胸の内を話せた。
恥ずかしくて、知られたくはないと思っていた本心を、よりによって一番好きな人に。
「笹岡が男にまでもてたりしたら、俺は気が気じゃないな。心配でとても見てはいられないだろう。君のいいところは、俺だけが知っていたらいいじゃないか」