偽りの婚約者に溺愛されています
『笹岡。このシリーズ、工場に追加発注しないと、生産が追いつかないかも知れないぞ。支店から注文がどんどんきてる』

『はい。もう、営業部に連絡済みですよ。在庫を工場に確認するそうです』

『えっ』

仕事においても、俺の考えを先回りすることが多く、状況判断をするのが得意な彼女との作業は非常にやりやすかった。

『しかし、そのファイルは画期的でしたよね。プレゼンで松雪さんの企画に聞き惚れたほどです!尊敬しますよ。売上も話題性も、群を抜いてますよね』

素直に敬意を示す彼女を、笑顔で見つめる。

『まさか商品化になってシリーズ化されるとは、企画した本人も思ってなかったけどな。しかも、こんなに売れるとはな』

『商品化は当然ですよ!ワンタッチボタンで穴まで開くなんて、普通は考えつきませんよ。だけど欲を言えば、カラーやイラストのバリエーションがもう少し欲しいところですよね。素材も変えたりして、かわいくしたり。そしたら若い人や学生の需要も狙えるかもしれないのに』

彼女の言葉に、俺は目を見開いた。

『実用的だけど、地味なんですよね〜』

『それいいな。やっぱり女性の観点は重要だな。男にはない発想だ。女心は女性にしかわからないからな』

彼女の意見を今すぐ伝えようと思い、部長に内線するために受話器を手にする。

『ん?どうした』

そのとき、赤い顔で俺を見たまま黙る彼女に気づき、不思議に思った俺は、動きを止めて彼女を見た。



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