偽りの婚約者に溺愛されています
その場にいた者が一斉に笑いだす。
俺は笹岡が、女性に対してのセクハラだとか言いだすのではないかと思い、ハラハラした気持ちでその様子を見ていた。
なにかあれば、責任者として場をとりなす必要がある。
だが笹岡は、穏やかににっこり笑いながら、そんな連中を見るだけだった。
『山野さん、ひどい。夢子ちゃんだって女の子よ』
山野にかばわれた女性が、怒ったように彼に言う。
どうやら女性陣には好かれているようだ。
『まあ、確かに、夢子ちゃんのほうが、山野さんより格好いいけどね』
『そんな。ひどいよ、彩香ちゃん』
そんなやり取りに、周囲にいる者がさらに笑う。
彼女は、曖昧な笑顔のまま、そんな彼らを見つめていた。
その目が悲しそうに見えた俺は、思わず助け舟を出す。
『山野くんは彼女の箱を持って。俺は笹岡の分を持つから』
てきぱきと商品を振り分け、それを抱えた俺に彼女が言う。
『私は大丈夫です。持てますから』