偽りの婚約者に溺愛されています
そして今。
急に泣きだした彼女を、咄嗟に抱きしめてしまった。
今までのことが、泣くほど耐えられなかったのか。
俺が皆に、君の女性らしさを話さなかったからなのかも知れない。
罪の意識で自分を責める。
俺が本当の君を独り占めしたいなどと思ったから、君は泣くほどに思いつめたのだと思った。
かたくなに自分を否定する君に、とうとう『かわいいと思っている』と本気で言ってしまった。
男性に免疫がないであろう君が、戸惑うことを知っていたのに。今の距離感を変えるつもりなど、なかったのに。
警戒されて話せなくなるのではないか。
黙り込んだ彼女を見ながら考える。
なんと言えばよいかわからずにいると、一旦立ち上がっていた彼女が、再び俺の隣に座った。
「松雪さんは素敵な人です。そんなふうに言ってもらって、本当に嬉しい。でも、もういいんです」
「もういい、ってなにがだ」
聞き返すと、彼女はにこっと笑いながら、衝撃的な告白をし始めた。
「私……父にお見合いをするように言われているんです。きっと、男性に縁がないと思われているんでしょう。実際、そうですけど」
「お見合い?なぜ。君はまだ若いだろう。結婚を急ぐ必要なんてないはずだ」
彼女は結婚するために、焦るほどの年齢ではない。
じっくりと相手を探す時間は充分にある。