偽りの婚約者に溺愛されています

「そしたら……恋愛結婚できないじゃないか。それは君の本意ではないだろう」

ようやく答えることができたと思ったら、こんなことしか言えない。
自分の言葉の引き出しの少なさに、愕然とする。

「いいんですよ。お見合い相手と恋愛できるかもしれないですから。まあ、お互いに気に入らなかったとしても、断ることはおそらくできませんけどね。きっと、提携会社とかの息子さんでしょうから」

「それだと政略結婚じゃないか!」

思わず大きな声で言う。
異様な腹立たしさが、じわじわと湧いてくる。
どうして彼女がそんな目に遭わなくてはならないんだ。

「そうかもしれません。でも、私を好きな男性なんて、今はいないですし。あーあ。お金を払うからと言ったら、誰かがしばらく恋人になってくれないですかね。……なーんて、バカなことを考えたり」

自嘲気味に笑いながら言う彼女に、思わず言っていた。

「お金で恋人を雇うのか?じゃあ、俺が君に雇われてやるよ。君の恋人を演じてみせる」

「……へ?」

彼女が俺を見た。

「嘘でしょう?いやだ、冗談ですよ?……まさかそんな」

「俺は本気だ。俺は社長と面識もある。俺をここに呼んでくれた人だからね。信頼もされていると思う。俺なら、社長も認めてくれる」

絶句して驚く彼女に、さらに言う。

「俺でよければ手伝うけど。君の恋愛したいという夢を叶えてやれる。俺の出現によって結婚話がなくなれば、ゆっくりと相手を探せるじゃないか。君はお見合いをせずに済むんだ」





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