偽りの婚約者に溺愛されています
「君は俺を雇った。俺は君の結婚を全力で阻止する。契約成立だ」
俺は立ち上がると彼女を見下ろした。
戸惑う視線で俺を見つめる君が、可哀想に思えてくる。
会社の運命を背負い、それに人生を捧げようとする献身的な選択は、まさに彼女らしいと思う。
だが、俺にはそれを黙って見過ごすことなどできない。
「契約印を押さないとな」
「え……」
そのまま顔を下げて、そっと唇を重ねる。
「ん……?!」
彼女が驚いているのが、その硬直した身体から伝わってくる。
しばらくして、そっと唇を離し、その目を至近距離から見つめた。
うるうると濡れた瞳に、呼吸が乱れて上下する肩。
こんな姿を、他の誰かに見せようとしたのか。
まだ会ったこともない男に君は、この先こんな目線を向けるつもりだったのか。