偽りの婚約者に溺愛されています

松雪さんは、私のお見合い話を聞いて阻止するために、こうして婚約者のふりをすることとなっただけだ。
しかもそれは、対価があっての話だ。

四百万円で、彼の本物の愛を買うことなどできはしない。
好きな男性と、夢のようなひとときを過ごすだけだ。

終わりの来る幸せを、思わず買ってしまった私は、なにか間違ったのではないだろうか。

「じゃあ俺が、君を女だと自覚させてやるよ。うんと甘やかして、可愛がってやる。ちなみに追加料金は取らないよ。これはサービスだ」

ニコニコしながら、私の頭を撫でる彼を見つめる。
なにを考えているのか、さっぱり読めない。

「松雪さん。まさか……膨大な借金なんかを抱えてるんじゃないですか。そうじゃないと、普通はこんなことをしようとは思いませんよね」

真剣な顔で思わず尋ねると、彼はぶっと吹き出した。

「あははは。それはないよ。まあ、いいじゃないか。俺がそうしたいんだから。協力させてよ」

ケラケラと笑いながら、彼は歩きだした。

「今日のディナーはご馳走するよ。芝居の舞台への出陣式だ。そろそろ社長に会わないとな。君の彼氏として」

その後ろ姿を見ながら、私の胸が締めつけられる。
もしもあなたが、本当に私を好きだったなら、きっと世の中の景色は違って見えるのだろう。

初めてのキスも、その優しさも、こんなに辛くは感じないのだと思う。

だがこれは彼の言う通り、あくまで芝居だ。
彼は私を好きなわけじゃない。




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