偽りの婚約者に溺愛されています

「理由?そんなのがいるのか。やっぱり君は変わってるな」

その言い方に、ズキッと心が痛む。

「変わってるというのは、私はこれまで松雪さんがデートしてきた方々とは違う、という意味ですか。まあ、否定はしませんけどね」

彼と噂になったことのある女性は、皆決まって美人だった。


私は彼に対して、どうしてもこんな言い方をしてしまう。どうして可愛く笑って聞き流せないんだろう。
素直じゃない自分は、男性から好かれる要素を、ことごとく持ち合わせてはいないのだとあらためて感じる。

「デートしてきた方々ってなんだよ。俺はそんなに、遊んでるように見えるのか?」

「はい。そんな噂をよく耳にしますから。松雪さんはもてますからね」

「参ったな。君はそんな話まで真に受けてるのか。あれは、俺が中途採用の割に優遇されてることへのやっかみだよ。そんな噂を流すのが趣味の輩がいる。それか、噂されてる女性本人が言ってるんだろう」

ため息まじりに答えた彼は、面倒くさそうな表情になった。

「え。噂は嘘なんですか」

「ああ。おそらく、おおよそはね。まあ実際に、誘われたりすることも確かにあるけど。たいてい断ってるし、恨みを買ってるのかも。もしも社内の女性と遊んだりしたら、あとが面倒そうだからな」

「そうなんだ……」

彼の答えに拍子抜けする。
話してみないとわからないことが多い。

「……君を飾ってみたくなった。もっと綺麗になるはずだから」

「え?なんですか?」

突然言われ、首をかしげる。

「君に贈り物をするには、理由が必要なんだろ?君はアクセサリーをつけない。だけど飾ると綺麗になるはずだ。女性は、化粧やファッションで、見違えるほどに変わる。これから噂で、ともに注目されるんだから、少しは婚約者である君を、可愛くしてもいいだろ?」


< 41 / 208 >

この作品をシェア

pagetop