偽りの婚約者に溺愛されています
「おー、お疲れ。皆、そろそろ会議室に移動しろよー」
企画課のオフィスに入った瞬間、松雪さんが大きな声で言う。
「課長、ここにあったサンプルの箱はどうしたんですか」
不思議そうな顔で、男性の同僚が尋ねた。
「ああ、それな。笹岡が運んでくれたそうだ。もう会議室にある」
「ええっ。あれを全部ですか?マジか。やっぱり男オンナだな」
松雪さんの隣にいた私に、皆が視線を向ける。
その言い方に少々ムッとしたが、私は笑顔を向けた。
「ええ。軽かったのでお気になさらずに。力仕事は得意ですから。男性よりも早く運べますよ。なんていっても、男オンナですからね」
おどけたように言うと、皆はどっと笑った。
「気になんてしてないよ。俺たちよりもよっぽど逞しいもんな」
「笹岡さん、かっこいい」
「ほんと、男だったらよかったのに~」
ええ、ええ。そうですとも。男らしくて悪かったわね。
そう思いながらも笑顔は崩さない。
ずっとこんな風に周囲から思われてきた。今さら傷ついたりはしないから、なんとでも言えばいいわ。