偽りの婚約者に溺愛されています

指輪よりもボール。
そんな君にたまらなく惹かれていく心。
どうしてもっと早く、気づけなかったのだろう。

今すぐに抱きしめてその口をこじ開け、無理やり俺のものにしてしまいたい。
その目をふさいで、俺だけしか見えなくなるようにしたい。

こんな気持ちのまま、いつか君が離れていくのを、指をくわえて見ていなくてはならないのか。

「笹岡。くどいようだが、やっぱり俺は、お金を預かっていなければならないか?なにか別の方法があるのかもしれない」

思いきって尋ねる。
今ならばまだ、間に合うかもしれない。
俺が思う別の方法なんて、君と本当の恋愛をすること以外はない。君は俺をそんな風には思えないのだろうか。

だが次の瞬間、彼女の顔から笑みが消えた。

「私は……中途半端なことをしたくはありません。ご迷惑でしょうが、これはけじめなんです。受け取っていただけないのならば、本来の予定通り、お見合いをするしかありません。やっぱり、やめますか?私はそれでも構いません」

「いや!いいんだ。わかった。ごめんな、何度も聞いて。あまりにも大金だったから、実際に見てやっぱり驚いてしまってさ」

慌てて言うと、彼女はにこっと笑った。

「運命を変えていただくのに、その金額では不足かもしれません。大金だと思うのも松雪さんの自由です。ですが、私が救われるのは確かです」




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