偽りの婚約者に溺愛されています
砕け散った想い。彼女との距離は、これ以上はもう変わらないのだと感じた。
「そうか。ならいいんだ。もう、二度と聞かないよ」
「はい。……ありがとうございます」
彼女から目を逸らし、窓の外を見る。
君を手助けすることしか今の俺にはできないのならば、そうするしかない。
これからも、君を好きだと言わずにいよう。
そう心に決めた。
「俺を名前で呼んでもらわないといけないな」
「えっ。下の名前でですか」
「そう。その敬語もやめてもらわないと。婚約者らしくないだろ」
彼女に向き直る。
これからはただ、演じるのみだ。
心を隠して、君を幸せへと導く。偽物とはいえ、彼女と恋愛できる。
「俺の目を見て言ってみて」
「う……。と、智也……さん。きゃー。無理です!恥ずかしすぎます」
手で顔を覆った彼女の耳が、真っ赤に染まっている。
「バカだな。こうやるんだよ。……夢子」
その目を見つめながら名前を呼んだ俺を指の隙間から覗く彼女に、笑いかける。
「あの……やめてください。……勘違いしそうになりますから」
「勘違い?なにを」