偽りの婚約者に溺愛されています
地面を見下ろすように俯く彼女の頭を、繋いでいないほうの手で撫でる。
「そんなことない。君の気持ちは伝わるよ」
「本当にそう思いますか」
「ああ。間違いなく、きっとな」
俺がそう言った瞬間、ガバッと顔を上げた彼女に驚く。
「うわ。どうした」
「智也さん。婚約してくれてありがとうございます。私、頑張ります。智也さんに迷惑をかけないように、最後までしっかりと婚約者をしますから」
そう言って笑った彼女を、思わず抱きしめた。
「頑張る必要なんてない。俺はありのままの君を受け止めるから」
君に振り向かない男なんて、初めから好きにならなくてもいい。
この契約に、最後なんて来なくてもいい。
この愛しい温もりを失いたくない。
「智也さん。……どうして」
自分でもどうしたらよいのかわからない。
君を好きだという気持ちだけが、焦ってから回る。
「ごめん。もう少し、このままで」
ただ、君を抱きしめることしか、今はできない。
少しでもいいから、君を感じたい。
伝えられないもどかしさが、俺の心を強く締めつけていた。