偽りの婚約者に溺愛されています
今日だけは、かわいくなります
「ダメだ。それだとコストがかかりすぎる」
「小売価格を多少上げてでも、ここは譲れないです!消費者は使いやすさを求めてるんですから」
「ペン一本に三百円払う人なんていない!自分の価値観を押し付けるな」
企画ミーティングで松雪さんと言い合う。
他のメンバーは、白熱していく私たちを呆然と見ていた。
新型ボールペンの案を企画した本人である先輩社員でさえ、私たちの話に入ってはこない。他人事のように話を聞いているだけだ。
「じゃあ、他の箇所で素材を変えるとか」
「お?それならいけるかもな」
私が言うと、ようやく松雪さんも同調した。
小会議室でのミーティングに参加している他の五名は、ようやく落ち着いた様子の私たちにほっとしたように、顔を見合わせていた。
「仲がいいのか悪いのか。本当に課長と笹岡はわかりませんよね。昨日の交際宣言も、本当に驚きましたよ」
ひとりの男性社員の言葉に、私と松雪さんはそろって顔を上げ、彼を見た。