偽りの婚約者に溺愛されています
「おい。違うだろ!初めに言う言葉は『ありがとう』だろうが!」
急に私の隣で松雪さんが怒鳴った。
私を含め、辺りが静まり返る。
笑っていた人たちも、驚いた顔で松雪さんを見ていた。
「笹岡は女性なんだぞ。荷物運びは男の仕事だろ⁉今後は、気づいたやつは率先してやれよ。俺もそうするから」
そう言ってから皆をひとしきり睨んだあと、松雪さんは私を見下ろした。
「本当にすまなかった。今後は遠慮なく言うんだぞ。ありがとう」
「嫌だ、本当に大丈夫ですから。お礼なんて言わないでください。こちらこそ、勝手をしてすみませんでしたね」
こんなとき、本当に思う。
私は素直じゃないと。
松雪さんの部下になってから、こうして何度も優しくされてきた。
そのたびに、思わず反発するような言い方をしてしまう。
だけど、こんな人に出会ったのは初めてだから仕方がない。
女性として優しくされることに、私はまったく慣れてはいないのだから。