偽りの婚約者に溺愛されています

私に向かってそっと伸びてきた彼の指が、私の前髪に触れる。

「髪を伸ばせばいい。似合うから。見てみたいな」

「似合いませんよ。これでいいんです」

そんなことを言わないで。
髪が伸びるまで、あなたはそばにはいないのに。
これ以上、惑わせないでほしい。
震える脚に力を入れながら、強く思う。

「婚約者として頑張るんだろ?俺の言う通りにするんだよな?」

彼から漂う甘い空気が、私を息苦しくしていく。

「どっどうしてそんなことを言うんですか。ずるいです。私はどうしたらいいんですか。勘違いすると言いましたよね。困ります」

彼から目を逸らし、身体を反対に向けた。

そんな私を、彼は急に背後から抱きしめた。

「なっ……!」

「そんなに避けるなよ。悲しくなるだろ」

耳元で囁かれ、彼の吐息を感じる。

「避けてなんか……」

心臓が破裂しそうなほどに鳴り響く。

「意識してるのか?」

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