偽りの婚約者に溺愛されています
「ふりだけなのにおかしいですよ!こんなこと、しなくても__」

「やるからには容赦しない。勘違いしてもいい。疑似恋愛でも、本気になってもらう。中途半端は嫌いなんだろ?」

私の胸の上で組まれた彼の手が、さらに強く私の身体を締めつける。

「私は……そんなこと……」

お願いだからこれ以上、私の心に入ってこないで。
あなたを好きな気持ちを、必死で隠しているの。苦しくて、今にも崩れ落ちそうだ。胸に抱えた想いが、破裂しそうになる。

「……ははっ。これくらいにしておくか」

ギュッと目を閉じて耐えていると、松雪さんの手がパッと私の身体を離した。

恐る恐る振り返ると、笑いを噛み殺しながら私を見ている。

「君が悪いんだ。なんだかよそよそしくしてるから、意地悪してみたくなったんだ。ちょっとやりすぎたかな」

私の頭を、軽くポンポンと叩きながら彼は歩きだす。

「資料を取ってくるよ。君は戻っていてくれ」

そんな彼を黙って見ていると、振り返らないままでさらに言う。

「今夜君の家に行くよ。社長の都合を聞いておいてくれ」


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