偽りの婚約者に溺愛されています
「えっ……。ええっ?」

両手を口に当てて目を見開いた。

家に来る?
そう。いつかは父に紹介しなければならない。
だけど、急すぎて気持ちが追いつかない。

「どうしよう」

呟いたまま考えるが、どうしようもない。
早くしなくてはならないことはわかっている。

遠ざかる松雪さんを見つめて、ふと思う。
もしかして彼は、この契約を早く終わらせてしまいたいのではないだろうか。
彼にとっては、面倒事以外のなにものでもない。
時間をかけないほうが、尾を引かないに決まっている。噂や中傷が、少しでも小さく済むのならば。

私は終わりたくはないが、彼は違う。
でもどうせ終わるなら、早いほうがいいだろう。

そう思った次の瞬間、私は携帯をポケットから取り出すと、父に向けて発信した。




< 62 / 208 >

この作品をシェア

pagetop