偽りの婚約者に溺愛されています
夜になり、今日の準備のために残業しないで帰宅した。
松雪さんが家に来る。
私の婚約者として、父に認めてもらうために。
私のお見合い話を中止してもらうため、私に雇われた彼の重大な任務を果たすために。
シャワーを浴びてから、鏡に映る自分を見つめる。
細く筋肉質であった身体は、バスケから数年離れただけで、ずいぶん女らしくなったように感じる。
棒切れのようだったはずなのに、丸みを帯びてきた気がした。
「太っただけかも」
自分に都合がよすぎるような気がして、思わず呟く。
身体が多少、女らしくなったところで、松雪さんに見せるわけでもないし、好かれるはずもない。
慌てて服を着ると、そのままリビングに向かった。
「あら、夢子。あなた、またそんな格好をして。彼が挨拶に来る日くらい、きちんとしないと」
母がジーンズ姿の私を見て、ため息まじりの声で言う。
「別にいいのよ。会社でもこんな感じだし」
私が答えると、今度は父が口を挟んだ。