偽りの婚約者に溺愛されています
お父さん、お母さん。ごめんなさい。
私は愛されてなんかないの。
彼は、私に同情しただけなの。
そう打ち明けられたら、どんなにいいだろうか。
松雪さんにも、嘘をつかせないですむのだから。
母の部屋で、彼女の若い頃のスカートを履き、薄化粧を施される。
淡い桃色のフレアスカートは、思いの外似合っているような気もする。
短い髪も、軽くブローするだけでずいぶん印象が柔らかくなったかも。
「素敵なネックレスね。彼に貰ったの?」
母に言われ、私は赤くなってしまう。
「うん。優しい人なの。誕生日でもなんでもないのに、首にかけてくれたのよ。どうせ似合わないのにね」
「彼は似合わないなんて思ってはいないわ。好きな子が綺麗になるのが、嬉しいのよ。誕生日じゃなくても、あなたを喜ばせたいと思ってくれてるの」
母は言いながらニコニコ笑っている。
母の話は違うけど、今日だけは精一杯お洒落をしようとは思えた。
やがてすぐに、終わる日が来る。
彼との時間が終わり、日常に戻ったら、今度こそ彼を忘れよう。
きっとできる。
それが松雪さんの望みであり、彼のためでもあるから。