偽りの婚約者に溺愛されています
そんなことを考えながら、インターホンを押す。
『はい』
「松雪と申します。夢子さんとのことで、ご挨拶に参りました」
『えっ。松雪さん?……あら?……お待ちください』
応答したのは母親だろうか。それか、手伝いの人か。
夢子ではないのは確かだが、声がずいぶん若く感じる。
俺の名前に驚いていたような気がしたが、ある事情からそれも予測していた。
しばらくしてから、門の間の扉が自動的に開きだした。
『お入りください』
スピーカーからの声に言われるままに、中に足を踏み入れる。
しばらく歩くと、玄関が見えてきた。
開いた扉の前に人が立っていて、すぐさまそれが社長だとわかった。
手伝いの人などは、どうやらいないようだ。
俺は小走りでそちらに向かった。
「社長。企画課の松雪です。ご無沙汰しています」
目の前に来てあらためて名乗り、深く頭を下げる。