偽りの婚約者に溺愛されています
「そうか」

社長は笑顔を崩さないままで、ドアのほうを見た。
つられてそちらを向いた瞬間、俺は驚いて固まった。

「智也さん」

夢子が立っている。
驚いたのは、その姿だ。

淡い桃色のミニスカートから、初めて見る彼女の素足が覗いている。
ふわりと巻かれた髪に、薄く施された化粧。

「おお。可愛くなったじゃないか。なあ、母さん」

「モデルよりも、私の腕がいいのよ」

彼女の後ろから現れた、柔らかな印象の母親。
驚いている場合じゃない。
立ち上がって頭を下げる。

「夢子さんとお付き合いさせていただいてます、松雪と申します」

「あらあら。お顔を上げてください。そんなにかしこまらなくてもいいんですよ」

言われるままに顔を上げると、彼女も社長と同じように優しく笑った。


「お茶を淹れますね」

「あ、お構いなく。あと、これを」




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