偽りの婚約者に溺愛されています
手にしていた菓子の箱を差し出す。

「お口に合うかわかりませんが。夢子さんにはこれを」

お母さんがそれを受け取ったあと、夢子には花束を渡す。

「まあ、ありがとうございます」
「えっ。お花?綺麗」

「君のほうが綺麗だよ。驚いた。惚れ直すよ」

俺がそう言うと、彼女は花束でサッと顔を隠した。

「恥ずかしいからいいって言ったのに、お母さんが。似合わないでしょ」

「お母さんに感謝しないと。こんなに可愛い君を見ることができた。もっと見せてよ」

「やめてよ。似合わないから、見ないで。あっちを向いてください」

クスクスと笑う俺に、社長が言う。

「いやあ、見事だ。君は女性の心を掴むのが上手いんだな。これは、夢子もうかうかしてはいられないな。松雪くんはもてるだろう」

「とんでもございません。俺には夢子さんしか見えてはいませんよ」

嘘ではなく、心からそう思う。
今までどうやってその可憐さを隠してきたのか、不思議なくらいだ。
やはり、俺の目に狂いはなかった。

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