偽りの婚約者に溺愛されています
「夢子さんが社長のお嬢さんだと知ったとき、正直戸惑いました」
俺が話し始めると、ふたりは俺を見た。
「社長のご期待に添えますよう、頑張る所存です」
「だが、君は……」
社長の言いたいことがわかる。
「俺には弟がいます。グローバルスノーは、彼に任せたらいい」
俺の話に、ふたりは驚いた顔をする。
「智也さん……?」
眉をひそめて首をかしげる彼女を見て、さらに言う。
「俺は、スポーツ用品メーカー、『グローバルスノー』の後継者として、研修させてもらうためにササ印に来たんだ。笹岡社長の元で、勉強させてもらうために」
「待って。じゃあどうして……!」
驚愕した彼女の顔を見つめ、笑う。
金を受け取り、婚約者のふりをすることを引き受けた俺を、事情がわかりさらに君は不思議に思ったのだろう。
夢子との契約が終われば、俺はどちらの後継者にもならないということになるのだから。
「いいんだ。そんなことより、大切なものがあるから」