偽りの婚約者に溺愛されています
今は君に、嘘だと思われてもいい。
だから言わせてほしい。
「俺は夢子さんを愛しています。もちろん、結婚を前提にお付き合いしているつもりです。きっと、夢子さんを幸せにします」
はっきりとそう言った俺を、社長と夢子、盆に乗せたお茶を手にしたままのお母さんが、唖然とした顔で見ている。
「彼女の縁談を、お断りしていただけませんか」
「グローバルスノーは……?」
社長が、もう一度言った。
「会社よりも、夢子さんが大切です。それに、ササ印の業務にも最近は、やりがいを感じています。俺はここでもっと、やりたいことがあります」
「……わかった。縁談は断ろう。娘は君に出会えて幸せ者だ。君との交際を認めるよ。よろしく頼む」
差し出された社長の手を、強く握り返した。
「と、智也さん……」
今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げる夢子に言う。
「会社のことを黙っていてごめん。これでいいかな」
「そんな。だって……」
君が俺を受け入れなくても、仕方のないことだ。
社長には正直な気持ちを、伝えたかった。
幸せになってもらいたい。誰よりも。
ともに未来を歩く相手が、たとえ俺ではなくても。
心から思った。