偽りの婚約者に溺愛されています
本当の気持ちは言えません
「では、これで失礼します。ありがとうございました」
玄関で靴をはいてから振り返った俺を、夢子とご両親が見送る。
「こちらこそありがとう。夢子、外までお送りしなさい」
社長に言われ、彼女は素直に俺とともに外へと出た。
「いやあ、緊張したよ。うまくやれてたかな」
笑顔で振り返ると、なんと言えばよいかわからないとでも言いたげな顔で俺を見た。
「俺の演技も、核心に迫ってただろ。会社を継がなくてもよくなるなら、俳優業にでも転職するかな」
「わ……笑えない冗談はやめてください。智也さんがグローバルスノーの後継者だなんて知っていたら、……こんなことは頼みませんでした」
唇が震えて、うまく話せない様子の彼女が考えていることは、手に取るようにわかった。
ササ印も、グローバルスノーも、俺が後を継ぐことはなくなる。
「本当にもう、いいんだよ。実は長男だからという理由だけで社長になるだなんて、納得していなかった面もあるんだ。俺が言うのもなんだが、弟は優秀で素質があるからね」