偽りの婚約者に溺愛されています
「本気で言ってるのか。もしもそうならば、君には失望するよ」
彼女にはなにも伝わってはいない。
本当の気持ちを伝えてはいないので、無理のないことかもしれない。だが、やりきれない気持ちに心が支配されていく。
「気に障ったならごめんなさい。だけど、私のせいで智也さんの未来が変わるのが耐えられなくて……」
ボールを抱きしめて涙ぐむ彼女を、黙ったまま見下ろす。
スカートの下から伸びた細く白い脚が、カタカタと震えていた。
「お金が欲しくて頼まれたわけじゃない。本当は……」
「本当は……?」
俺を見上げたその顔が、美しいと心から思う。
このまま本心を打ち明けたなら、君はなんと言うだろうか。
「いや。本当に……君に幸せになってもらいたいからだ」
どうしても言えない。
君が同じ気持ちじゃないことを知っている。
きっと彼女は、今俺の本心を知れば受け入れるのだろう。
断ることなどしないはずだ。
それは、俺に対して申し訳ないと思っているから。
俺が欲しいのは同情なんかじゃない。
君の心が欲しいから。