偽りの婚約者に溺愛されています
「私はどうしたらいいですか。私、とんでもないことをしてしまって、皆に迷惑をかけてますよね」
彼女の目から、はらはらとこぼれ始めた涙はあまりにも透明で、彼女を責めたい気持ちを消していく。
それは純粋な彼女の、心を表しているようだ。
そうやって素直に、すべてを俺に預けたらいい。君の心の支えになりたい。
「誰かを好きになれる日まで、婚約者のふりをするから。心配はいらないよ」
「どうして私なんかのために、そこまでしてくれるんですか」
俺は微かに笑いながら、彼女の目線に合わせて腰を折った。
「そうか。君は理由を知りたがるんだったな。そうだな。……じゃあ、こういうことをしたいから?かな」
そのまま彼女の唇にキスを落とす。
あの日と変わらずに、それはしっとりと俺を包む。
あの日と違うのは、うっすらと目を開いて彼女を見ると、恍惚とした表情でいることだ。
俺を拒んで抵抗する様子はない。
そんな彼女の態度に期待する自分がいる。
このまま、俺を好きになるかもしれない。俺なしではいられなくなるかもしれない。
だけどどうしても、『本当は君が好きだ』と言えない自分が、もどかしい。