偽りの婚約者に溺愛されています

そっと唇を離し、彼女と見つめ合う。

潤んだ瞳がゆっくりと瞬きをする。

「……これで納得した?」

「……わかりません。わからないことばかりで、混乱します。ずっと、智也さんのことがわからないの」

彼女の首にぶら下がる、俺が贈ったネックレスをそっと触る。

「そうやって混乱しながらよく考えるといい。こんなとき、なんと言ったら男が喜ぶのか」

「……どう言えばいいんですか」

話しながら顔を再び近付けていく。

「……もう一度欲しい……ってねだるんだよ」

唇が触れる直前で言うと、彼女は目を閉じながら小さな声で言った。

「もう一度……お願い……します」

「夢子……っ」

引き寄せられるように口づける。

舌を絡ませながら、先ほどよりももっと奥まで。
どうしてこんなに愛しいのか。
君の唇が、この先もずっと俺のものだったなら。

きっと他には、なにも望まないのだろう。

激しくかられる愛に溺れそうになりながら、それを告げることだけはできない。

彼女の手から、バスケットボールが落ちてふたりの足元に転がる。
そのまま彼女のその手は、俺の背を這い上がってきた。

そのとき、言いようのない切なさが、俺を熱く包んでいた。






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