偽りの婚約者に溺愛されています
君をさらってもいいですか
お見合いさせていただきます
「本当にお綺麗なお嬢様で。修吾さんもそう思うでしょう?」
「ええ。自分には勿体ないでです」
ふたりの会話を聞きながら、足をもじもじと動かす。
こんなに長い時間、正座なんてしたことがない。
今にも倒れ込みそうになりながらも、顔だけは笑顔を保っていた。
「そう言っていただけると嬉しいのですが、この夢子はどうにもがさつで。バスケットボールばかりしていたものですから、所作をまったく知らないんですよ」
私の隣でお父さんが言う。
「そんなそんな。お綺麗で利発で。理想のお相手ね?前向きに考えてよろしいんじゃないかしら、修吾さん」
「ええ。もちろんですよ、叔母さん」
愛想笑いで顔がつりそうだ。
私はもう、どうでもいいからとにかく早く足を崩したかった。
「ならば少し、修吾さんに礼儀作法を教えていただかないとな、夢子」
「ええ、そりゃもう是非」
答えながら、目で父に訴える。長時間の正座に耐えられる方法を、礼儀作法と一緒に是非とも習いたい!
もう無理!足がしびれて動けない!なんとかして!
「あら、そんな。おーっほっほ」
向かいに座るおばさまが、声高らかに笑うのを皮切りに、そこにいる全員が笑い出した。父も私の訴えに気づかない。
私も口に手を添えて、一緒に笑おうとした瞬間、悲劇が襲った。