偽りの婚約者に溺愛されています
「あらまあ!夢子さん!」
ドサッと後ろにひっくり返ってしまった私を、皆が驚いて見ているのが、転がる瞬間に見えた。
「夢子!なにをしてるんだ」
お父さんが焦ったように言う。
私は天井を見ながら、とうとうやってしまったと頭が真っ白になっていた。
「ぶ……っ。くくくっ」
私の姿を見て、私の前に座る松雪さんが笑いを堪えているのが聞こえた。
……やっぱり似ている。笑いを堪える声が、あの日と同じだ。
私が沢井さんに告白された、あのときのことが思い起こされる。
松雪さんは、自販機の陰でお腹を抱えていた。
ここにいる彼も、松雪さん。
ただ、彼ではない。弟の修吾さんだ。
私は成人式のとき以来、着てはいない着物に身を包み、この場に臨んでいた。