偽りの婚約者に溺愛されています
『先方にお見合いをお断りしたら、非常に残念がっていたぞ。松雪くんの弟さんの修吾さんが、どうやらお前を知っているらしくてな。気に入っていたらしい』

数日前に父に言われ、首をかしげた。
彼の弟さんに会った記憶などなかったからだ。

『覚えてないんだけど。どうして私を知っているのかしら。それより、どうしてお見合い相手が弟さんだと彼に言わなかったの?』

智也さんが挨拶に来た日から三日経っていた。
彼は出張で、あれ以来顔を合わせてはいなかった。

『ああ。別に深い意味はないが、断るならば関係ないだろう?あの日は、お前たちの話を聞きたかったから、見合い相手のことを話題にすることもなかっただろうしな』

『そっか。まあ、そうだね』

『まあ、いずれ松雪くんも知ることになるとは思うが』


そのときは、父の言う通りだと思っていた。
どうせ会うこともないのだと。

むっくりと起き上がった私は、もう取り繕っても仕方がないと思い、私を見る一同に言う。

「すみません。足が痺れてどうしようもなくて。普段はまったく正座なんてしないですから。いやぁ、思っていた以上に過酷ですね!なめてましたよ!」


頭をかきながら、あははーと笑う。


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