偽りの婚約者に溺愛されています
「ぶっ。……いや、失礼。でも……あんな……。わはははっ」
修吾さんは私を見ながら、とうとう大きな声で笑いだした。
「修吾さん。ちょっと。失礼でしょ」
「あはははっ」
彼の隣にいるおばさんが、さすがに気まずそうな顔をしている。
「あの、笹岡さん。私たちは席を外しませんか。お二人で過ごされたほうがいいですわ。今後のお話なんかもしたいですし」
「あ、ああ。そうですね」
彼が笑うのをやめないのでさじを投げたのか、父を誘いだし、ふたりは部屋を出ていく。
私は涙を浮かべながら笑う彼と、ふたりきりにされてしまった。
「あのー。修吾さん」
「わはははっ。ごめん、止まらな……っ。あははっ」
呼んでもなかなか笑いが止まらない。
仕方がないので、彼が落ち着くまでと思い、私は目の前の和菓子を食べ始めた。
あら、美味しいじゃない。さすがにいいものを使ってるわね。
そう思いながら、もうひと口。
やわらかな甘みが口に広がり、うっとりする。
どうせなら、高級和菓子を楽しもう。こんなに素敵な料亭になんて、もう来ることはあまりない。
このあと、お昼ご飯も出るかしら。そうだとしたら、やっぱり懐石よね。
目の前の彼のことを忘れて、食べ物のことばかり考える。