偽りの婚約者に溺愛されています

「ぶっ。……いや、失礼。でも……あんな……。わはははっ」

修吾さんは私を見ながら、とうとう大きな声で笑いだした。

「修吾さん。ちょっと。失礼でしょ」
「あはははっ」

彼の隣にいるおばさんが、さすがに気まずそうな顔をしている。

「あの、笹岡さん。私たちは席を外しませんか。お二人で過ごされたほうがいいですわ。今後のお話なんかもしたいですし」

「あ、ああ。そうですね」

彼が笑うのをやめないのでさじを投げたのか、父を誘いだし、ふたりは部屋を出ていく。

私は涙を浮かべながら笑う彼と、ふたりきりにされてしまった。


「あのー。修吾さん」
「わはははっ。ごめん、止まらな……っ。あははっ」

呼んでもなかなか笑いが止まらない。

仕方がないので、彼が落ち着くまでと思い、私は目の前の和菓子を食べ始めた。
あら、美味しいじゃない。さすがにいいものを使ってるわね。
そう思いながら、もうひと口。
やわらかな甘みが口に広がり、うっとりする。
どうせなら、高級和菓子を楽しもう。こんなに素敵な料亭になんて、もう来ることはあまりない。
このあと、お昼ご飯も出るかしら。そうだとしたら、やっぱり懐石よね。
目の前の彼のことを忘れて、食べ物のことばかり考える。





< 85 / 208 >

この作品をシェア

pagetop