偽りの婚約者に溺愛されています
「君は、本当に自分を飾らないんだね。よかったら俺の分もどうぞ。ぶははっ」

自分の前に置かれた和菓子を、私のほうにずいっと差し出す彼を見た。ようやく少し、笑いがおさまったようだ。

「今日は無理を言って来てもらってありがとう。助かったよ」

「むぐっ。ぐへっ。……べ、別にいいですけど。おほほほ」

口の中の餅を飲み込み口をそっと拭うと、お上品に笑ってみた。

「ぶはっ。そういうのはいいから。普通にしていて。これ以上は、また可笑しくなるからやめて」

なによ。失礼ね。
そう思ったが、口にはしない。

笑い上戸なところと、顔の表情がそっくりだ。
ここにいるのが、兄の智也さんだったとしても、おそらく同じ反応をするのだろう。

「叔母さんがうるさくてさ。一回誰かと会わないと、次々に話を持ってくるからね。君のことは知っていたから、ちょうどよかったよ」

そう。
会わないはずだった彼と、こうして過ごしているのには訳がある。

この事態を回避するために、智也さんに恋人のふりをしてもらったのだが、お見合い相手である修吾さんが本気ではないのならば、困っているようだったから助けようと思ったのだ。


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