偽りの婚約者に溺愛されています
父がお見合いを断った翌日、彼はササ印へとやってきた。
『笹岡さん。お客様が受付に見えてるそうですよ。今連絡がありました』
『え?誰?』
『わかりません。なんか、グロー?なんとかって。取引先とかじゃないですか。課長が今週、出張なのを忘れて約束していたとか?』
『取引先?聞いてないけどなぁ。会社名くらいきちんと聞かないとダメだよー』
仕事中、後輩と話しながら考えるが、来客の予定などなかった。
とりあえず、ロビーに向かう。
『お待たせいたしました。企画課の笹岡です』
椅子に座って待つ男性の、後ろから声をかける。
『笹岡さん?やあ、来てくれてありがとう』
振り返り立ち上がった彼は、なかなかの美男子だ。
智也さんと同じように、長身の私を悠々と見下ろす数少ない、さらなる長身タイプの男性だった。
『申し訳ありませんが、課長の松雪は出張中でして、私でよろしければ、ご用件を伺います』
彼を見上げながら、マニュアル通りの対応をする。