偽りの婚約者に溺愛されています
『やだな。兄さんに会いにわざわざ来ないよ。君に用があるんだ、夢子さん』
『えっ』
どうして私の名前を知っているのか。しかも、『兄さん』ですって?
と、いうことは。
『ひどいな。会わずにお見合いを断るなんて。俺は楽しみにしていたんだよ。興味すら湧かなかった?』
馴れ馴れしい人だと思ったが、突っ込んでいる暇もない。
『まさか。……お見合い相手の__』
『そう。君の婚約者になる予定だった松雪修吾です』
にっこり笑って言う彼を、唖然と見つめる。
『あはは。困ってる。相変わらず面白いね、夢子さんは』
相変わらず?その言い方に違和感を覚える。
いつ話したんだろう。
『どこかでお会いしましたか。そう言えば父も、松雪さんは私を知っていると言っていましたが』
『その話はあとでいいから。とりあえずは、俺の話を聞いてもらえないかな。困ってるんだ。君に助けてほしい。ダメかな』
言いながら彼は、眉尻を下げ本当に困った表情になった。
よくわからなかったが、松雪さんの弟さんだし、とりあえず話を聞くくらいならと、私は彼と近くのカフェに移動した。