偽りの婚約者に溺愛されています

『父と叔母が、代わる代わる見合い話を持ってくるんだよね。どうやら、俺が落ち着かないのが気に入らないらしくて。身を固めろとうるさいんだ』

『はあ。そうですか』

カフェに入り席についた途端、彼は身の上話を始めた。
顔はよく似ているけれど、私の好きな松雪さんとは、ずいぶんタイプが違う。

『でもさ、女性と遊べるのも今のうちでしょ。誰にも迷惑はかけていないしね』

『まあ、そうですね。相手の方が納得しているのなら』

なんとなく、私の置かれている状況とかぶる。
彼の意志とは関係なく、周りが結婚を急かしているようだ。

『彼女たちは納得してる。俺も今のライフスタイルを、まだ崩したくはないんだ。だけど父は、次の見合いを決行できないと、勝手に結婚相手を選ぶって言うんだ。俺が、そもそも見合いなんかする気はないんだろうってね。その運命の見合い相手が、たまたま君だった』

『私をどうして知っているんですか』

『君が前に、兄さんとふたりでいるときに会ったよね。君はあの威圧的な兄さん相手に、歩道の真ん中で言い合っていた。俺でもそれはできないよ』

いつだろう。
目玉を天井に向けて考える。


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