偽りの婚約者に溺愛されています
『俺がどうしても、一度君に会わないと納得できない、とごねてみるよ。会うだけだから大丈夫だろう』
数時間会って、彼のお父さんと叔母さんを納得させるだけの席。
終わり次第に断る。
言われる通り、なんの問題もない気がする。
『わかりました。父がいいと言えば行きます。あなたの気持ちはよくわかりますから』
どうしても放ってはおけなかった。
私だって、松雪さんに助けてもらったのだから、私も弟さんを助けたい。
『お礼はするよ。助かる。ありがとう』
『お礼なんていりません。松雪課長にお世話になっていますから、それだけで充分です』
『兄さんは兄さんだろ。それは俺には関係ない。まあ、いいや。お礼については、いずれまた』
この人に、彼氏の役をお兄さんにしてもらっていると告げたらどんな反応をするのだろうか。
私を軽蔑して、嘘の見合いを頼むことを、やめるかも知れない。そしたら彼は、婚約者を勝手に決められてしまう。
そう思うと、本当のことが言えなかった。