偽りの婚約者に溺愛されています

父は彼から再び見合いの申し入れを受けて、案外あっさりと承諾した。

『まさか修吾さんがそこまでお前を気に入っていたとはな。どうする?お前がいいなら、会ってみたらいい』

私は考えていた答えをそのまま伝える。

『じゃあ会ってみようかな。あんまり失礼なこともできないしね』

私の答えに、父は違和感を感じなかったようだ。

『そうか。断って松雪くんと結婚するにしても、いずれは家族になる人だ。松雪くんには見合いをすると言うのか?』

『余計なことは言わないでおこうと思うわ。彼に迷惑はかけないから』

『そうだな。心配をかけるだけかも知れないな。父さんもなにも言わないよ。お前に任せる』

父が言うこととは逆で、心配どころか智也さんにとっては、私がお見合いをしてもどうでもいいことだろうと思う。
むしろ、うまくいけば喜ぶのかも知れない。自分の肩の荷が下りるのだから。
そもそも本当の彼氏ではないのだから、いちいち『お見合いしますけど心配しないで』だなんて伝えるのも、おかしな気がした。



「いやあ、しかし今日は本当に助かったよ。しばらく叔母も静かにしてくれるだろう」

彼はやれやれとばかりに、お茶を飲んだ。

「いいんです。お役に立てたならよかったです。修吾さんの気持ちがよくわかったので。無理やりなんて納得できないですよね」

私もようやく緊張が解け、彼につられるようにお茶に手を伸ばした。


< 92 / 208 >

この作品をシェア

pagetop