偽りの婚約者に溺愛されています
父は彼から再び見合いの申し入れを受けて、案外あっさりと承諾した。
『まさか修吾さんがそこまでお前を気に入っていたとはな。どうする?お前がいいなら、会ってみたらいい』
私は考えていた答えをそのまま伝える。
『じゃあ会ってみようかな。あんまり失礼なこともできないしね』
私の答えに、父は違和感を感じなかったようだ。
『そうか。断って松雪くんと結婚するにしても、いずれは家族になる人だ。松雪くんには見合いをすると言うのか?』
『余計なことは言わないでおこうと思うわ。彼に迷惑はかけないから』
『そうだな。心配をかけるだけかも知れないな。父さんもなにも言わないよ。お前に任せる』
父が言うこととは逆で、心配どころか智也さんにとっては、私がお見合いをしてもどうでもいいことだろうと思う。
むしろ、うまくいけば喜ぶのかも知れない。自分の肩の荷が下りるのだから。
そもそも本当の彼氏ではないのだから、いちいち『お見合いしますけど心配しないで』だなんて伝えるのも、おかしな気がした。
「いやあ、しかし今日は本当に助かったよ。しばらく叔母も静かにしてくれるだろう」
彼はやれやれとばかりに、お茶を飲んだ。
「いいんです。お役に立てたならよかったです。修吾さんの気持ちがよくわかったので。無理やりなんて納得できないですよね」
私もようやく緊張が解け、彼につられるようにお茶に手を伸ばした。