偽りの婚約者に溺愛されています
「ところでさ、どうして君は普段は化粧をしないの。今の君は別人だよ」
「似合わないからですよ。松雪課長も、もっとお洒落したほうがいいっていつも言いますけど。まあ、お世辞だと思いますけどね」
ゴテゴテと派手な柄の着物と、短い髪に無理やり挿してあるかんざし。顔は化粧で真っ白で、七五三みたい。
こんな私を見たら智也さんも会社の皆も、おそらく卒倒するだろう。
そう思うとなんだか可笑しくなってきた。
ひとりでクスクス笑い出した私を、修吾さんは楽しそうな笑顔で見つめる。
「兄さんは君がお気に入りみたいだね。彼は女性に、お洒落をしろだなんて言う人じゃないんだけどな。恋愛や女性に対してはどうでもよくて、むしろ面倒だと思うタイプだ」
「だけど会社ではもててますよ。憧れている子も多いし。だから、結構遊んでいると思ってたんだけど、本人は違うって言ってました。面倒くさがりなのは間違いないですね」
彼を思い浮かべると、自然と顔が緩んでくる。
今頃、打ち合わせなのかな。まさか私が、有給を取って弟さんとお見合いしてるだなんて、思ってはいないだろう。
「そうなんだよ。そんななのに、昔からよくもてるんだ。飄々としていて、俺からすると悔しいんだよな。……君も兄さんが好きなの?そんな顔をしてる」