偽りの婚約者に溺愛されています
「ぶっ!」

思わずお茶を吹き出した。

「あっ!すみません、かかりませんでした?」

焦りながらおしぼりでテーブルを拭く。

「大丈夫だよ。ふふっ。図星か。わかりやすいね。兄さんのそばにいる女性は、たいてい彼に惚れるからさ。珍しいことじゃない。大概はそうなんだよな。君も例外じゃないだろうし」

「いや!あの!私はそんなことないですよ?」

動揺してしまい、オロオロする。
これじゃ、その通りだと言っているようなものだ。

「ねえ、兄さんが好きなのに彼氏がいるの?彼のことは好きじゃないのか?まあ、誰が兄さんを好きでも仕方ないけどね。だって彼には__」

「も、もう私の話はいいですから。もしもたとえ、私が松雪課長を好きでも相手になんてされませんよ」

「いや、違うって。俺が言いたいのは、だから兄さんには婚約者が……」

その瞬間。

ザッ!と隣の襖が開いて、ビクッと驚く。

ふたりでそちらを見た。

「兄さん」
「智也さん?!」

そこで私たちを見下ろす智也さんの顔は、無表情だったが怒りに満ちているように見えた。



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